遺産相続とは、「遺産」を「相続」すること、つまり、亡くなった人が遺した財産(=「遺産」)を特定の人が引き継ぐ(=「相続」)ことを言います。
亡くなった方が遺した財産(=「遺産」)には、プラスの財産やマイナスの財産、権利や義務などもあります。
例えば、現金や預貯金、株式や国債などの有価証券、仮想通貨や投資信託などの金融商品、自動車や貴金属、骨とう品などの動産、土地や建物といった不動産がプラスの財産にあたります。
一方、借金があればマイナスの財産があることになります。
賃借権や地上権、特許権や著作権、ゴルフ会員権や電話加入権などの権利がある場合もあれば、何らかの義務を負っている場合もあります。
遺産相続にあたっては、これらの故人の遺産を調査し把握する必要があります。
具体的には、おおよそ次のような手続をとることにより、把握することができます。
金融機関の特定 |
預貯金の調査をする場合、まず、金融機関を特定する必要があります。故人が利用していた金融機関を特定しなければ、預貯金を把握することは困難です。 通帳やキャッシュカード、手紙、メール等を確認し、口座のある金融機関を特定しましょう。 もし、通帳やキャッシュカード等がなく、口座のある金融機関が分からない場合は、弁護士に依頼することにより、弁護士が金融機関に対して照会を行う方法により調査することも可能ですので、一度、弁護士にご相談されてはいかがでしょうか。 |
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残高証明書の発行 |
金融機関を特定できた後、郵送又は窓口で、残高証明書の発行を依頼します。 残高証明書の発行には、各金融機関が指定する書類の提出が必要となりますので、各金融機関のホームページの確認や窓口に問い合わせを行うなど、事前準備をしておきましょう。 |
証券会社やFX会社、保険会社等の特定 |
預貯金の調査と同じく、口座のある会社を特定する必要があります。 証券や取引レポート、取引案内、契約内容のお知らせ、残高通知などを確認し、口座のある会社を特定しましょう。 もし、口座のある会社が分からない場合は、弁護士に依頼することにより、弁護士が証券会社等に対して照会を行う方法により調査することも可能ですので、一度、弁護士にご相談されてはいかがでしょうか。 |
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取引残高報告書の発行 | 口座のある会社を特定できた後、取引残高報告書の発行を依頼しましょう。各会社が指定する書類の提出が必要となりますので、各会社のホームページの確認や窓口に問い合わせを行うなど、事前準備をしておきましょう。 |
不動産の調査は、権利書や市町村から発行される固定資産税課税通知書を確認します。
これらの書類がない場合や非課税の不動産を所有している場合は、市町村役場で、固定資産台帳(固定資産課税台帳、名寄帳ともいう。)を確認すれば、その市町村にある不動産を確認することが可能です。
なお、固定資産台帳(固定資産課税台帳、名寄帳ともいう。)で確認できるのは、あくまで、その市町村に存在する不動産に限られますので、注意が必要です。
ある程度の情報が把握できた後、法務局で土地又は建物の全部事項証明書(登記簿謄本)を取得すれば、さらに詳しい権利関係を把握することができます。
借金などのマイナスの財産の調査も忘れずに行うことが必要です。口座から定期的に引き落とされている支払いがないか、消費者金融からの督促状が届いていないか、保証人となっている契約書がないか等も確認しましょう。
遺産の調査には、専門家の助力が必要なケースも存在します。ご不安がある場合には専門家である弁護士に一度ご相談されることをお勧めします。
寄与分とは、相続人が、例えば、亡くなった方の事業(農業や漁業、会社など)を手伝ったことや、亡くなった方の介護を行ったことなどにより、故人の遺産の維持又は増加について特別な貢献があったときに認められるものです。
相続人は、寄与分が認められる場合、遺産分割において財産を多く貰えることになります。
相続人ではないけれど、故人の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)に当たるという方については、民法改正により新たに「特別寄与料」の制度が設けられました(民法1050条)ので、特別寄与料の支払いを請求することができるか検討することになります。
寄与分が認められるかどうかは、具体的な事情によって変わります。数百万円の寄与分が認められるケースもあれば、一切寄与分が認められないケースもあります。
寄与分があるのではないかと思われる方は、一度、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
配偶者居住権とは、簡単に言うと、故人(被相続人)の配偶者が、被相続人の死亡後もこれまで住んでいた自宅に無償で住み続けることができる権利のことです。
配偶者居住権は、2020年4月1日以後に作成する遺言書で設定することができますし、2020年4月1日以後に発生する相続でも設定することができます。
配偶者居住権は、第三者に対して、譲り渡したり、所有者の承諾なく建物を賃貸したりすることはできません。
しかし、その分、建物の所有権を取得するより低い価額で居住権を確保することができますし、遺言や遺産分割の際の選択肢の一つとして、配偶者は、配偶者居住権を取得することによって、故人の預貯金等の遺産をより多く取得することができ、生活資金を多く確保することができるというメリットがあります。
遺言で故人(被相続人)の所有者する建物に配偶者居住権が設定されていない場合でも、被相続人が亡くなった時点で、被相続人の配偶者がその建物に居住していたときは、他の相続人と遺産分割協議をすることで、配偶者居住権を取得することができます。
具体的なケースで、配偶者居住権を設定することができるかどうか、仮にできるとして、配偶者居住権を設定した方が良いのかどうかについては、専門家にご相談されることをお勧めします。
相続登記をせずに放置していると、将来、様々なデメリットが生じるおそれがあります。
例えば、相続登記をしない間に、相続人が亡くなってしまった場合、亡くなった相続人の子や孫が相続人になり、会ったことはもちろん、どこに住んでいるかも分からない人が相続人になっているケースがでてきます。いざ相続した不動産を売りたい、担保に入れてお金を借りたいと思っても、権利関係が複雑になってしまい、専門家の力を借りなければ、売ることや担保に入れることもできなくなってしまう場合もあります。
また、相続人が認知症に罹ってしまった場合には、場合によっては、裁判所で後見人の選任をして、選任された後見人の判断を仰がなければ、手続を進めることができなくなるケースもあります。
相続人の中に借金をしている人がいる場合は、要注意です。相続人に対してお金を貸している債権者は、相続を原因とする所有権(持分)移転登記の代位登記をすることにより、不動産を差し押さえることができます。仮に差押えをされると、借金を返さない限り、その不動産を売ったりすることができなくなります。
以上のように、相続登記をしない場合、様々なデメリットが生じるおそれがあります。
もっとも、このようなデメリットがあったとしても、諸事情から相続登記がされないことも多く、法律でも、相続登記は義務ではありませんでした。
しかし、2021年3月5日、民法等の一部を改正する法律案が、閣議決定され、第204回国会に提出されました。同法律案では、これまで義務ではなかった相続登記の登記申請が義務とされています。具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」とされており、さらに、申請をしなかった場合は、10万円以下の過料の制裁が科せられる規定も設けられています。
同法律案がそのまま成立し施行となれば、相続登記は、過料の制裁のもと、義務となりますので、注意が必要です。
特別受益の定めは、相続人の中に、亡くなられた方から多額の生前贈与や遺贈を受けた人がいた場合、その人と他の相続人との間に不公平が生じるため、この不公平を防ぐために設けられた規定です。
被相続人から「特別受益」を受けていると認められた場合には、まず被相続人の財産にその贈与等の価額を加えたものを相続財産として計算し、「特別受益」を受けた共同相続人は、法定相続分から贈与等の額を控除されます。
何が「特別受益」とされるかは、専門家の判断が必要となるケースもあります。例えば、生命保険金は、受取人の固有の財産と考えられていますので、原則として特別受益にはなりません。しかし、受取人である相続人とその他の相続人との間に生じる不公平が民法の趣旨に照らして到底是認できないほど著しいと評価すべき特段の事情が存在する場合には、特別受益に準じて扱う余地がある等と判断している最高裁判所の裁判例もあります。
特別受益について迷われた場合には、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。
相続では、マイナスの財産である借金も相続の対象になりますので、預貯金などのプラスの財産より借金などのマイナスの財産の金額のほうが多い場合は、相続放棄をすることをおすすめします。
相続には、亡くなられた方の権利義務(プラスの財産とマイナスの財産)を全て引き継ぐ単純承認という方法があります。
多くのケースでは、単純承認となっています。相続人は、相続開始があったことを知ったとき(ふつうは故人の死亡時)から3ヶ月が経過すると、単純承認したものとみなされることになっているからです。
一方で、亡くなられた方の権利義務(プラスの財産とマイナスの財産)を全て引き継がないという相続放棄の手続があります。
亡くなられた方の遺産に借金が多いというケースでは、相続放棄の手続が行われることがあります。家庭裁判所で手続を行うことが必要ですので、場合によっては、弁護士などの専門家に相談された方が良いかもしれません。
単純承認や相続放棄という手続以外に、限定承認という手続もあります。限定承認とは、簡単に言えば、相続人が、相続によって得た遺産の限度で、亡くなられた方の借金を支払い、遺産を超える借金がある場合は、その借金は負わないという手続きです。
限定承認も、家庭裁判所で手続を行うことが必要です。亡くなられた方のプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか分からない場合は、この手続を検討することになりますが、共同相続人の全員が共同してのみ行える手続となっていますので、注意が必要です。
遺産分割を進めて行くうえで、遺言がある場合には、原則として、遺言に基づいて遺産分割を行うことになります。亡くなられた方の意思を反映した遺産分割となります。
遺言がない場合には、相続人の間でどのように遺産分割を行うのかについて話し合います。これを一般的に遺産分割協議といいます。亡くなられた方との関係、それぞれの状況などを踏まえて相続人全員が納得すれば遺産分割協議で遺産を分けることができます。その際には、後に争いにならないように遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議では相続人全員が納得しないといけないので、誰か一人でも納得しない人がいる場合は、解決できません。そのような場合には、遺産分割の調停を家庭裁判所に申し立てることになります。調停に参加する対象となるのは相続人全員です。遺産分割の調停は、遺産分割協議と同じように、相続人全員が納得して調停が成立します。一人でも反対する人がいる場合は、調停での解決ができないということになり、調停が不成立となります。遺産分割の調停でも解決ができないとなると、自動的に審判に移行します。
遺産分割の審判とは、相続人それぞれに意見や主張を聞いたうえで、裁判官がどのように遺産分割するのかを決めます。この場合、法律にしたがい、基本的には法定相続分をもとにそれぞれの取得する遺産が算定されます。
未成年者の場合、通常は法定代理人である親権者が財産管理を行います。遺産分割の場合でも基本的には法定代理人である親権者が未成年者の代理人として手続きを行います。しかし、親権者である親のどちらかが亡くなった場合や養子縁組を組んでいる場合などで、未成年者と親権者ともに相続人であるケースがあります。このようなケースでは、未成年者と親権者の利害が対立するおそれが生じます。ですので、親権者がそのまま未成年者の法定代理人として手続きを進めることはできず、特別代理人という未成年者の代理人として別の人を選任してもらうように裁判所に申し立てる必要があります。
判断能力がない相続人が行った遺産分割協議は無効となります。また、判断能力があるのかどうかよく分からない場合に遺産分割協議を行っても、後に判断能力がなかったから遺産分割協議自体が無効であると主張され、争いになるケースもあります。判断能力があるのかどうかよく分からない場合には、争いにならないように、遺産分割協議の前に、医師に判断能力の有無について診察を受け、判断能力がないとされた場合には、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、成年後見人と遺産分割協議を進めていくことになります。
また、遺産分割調停を申し立てて、判断能力がない人には、特別代理人を選任してもらい、遺産分割を進めて行くこともできます。一般的に成年後見人よりも特別代理人の方が費用は安く済みます。